ニコチンのうそ

タバコは、イライラの素がぎゅっと詰まっているパンドラの箱。
ニコチンが切れるたびに、喫煙者は不快なイライラを感じ、何度もタバコに手を伸ばします。
深く吸引させてイライラから開放してやった後、ニコチンはまことしやかにこんなうそをつきます。
「煙を吸えば、どんなイライラでもすぐに消えてしまうんだよ」と。
ニコチンのうそにだまされてはなりません、煙にはイライラを消す働きのほかに、イライラを作り出す働きもあるんです。
喫煙によって、一時的に解消されるストレスは、喫煙に起因するニコチンの離脱症状に関係するものだけであって、それ以外の日常的ストレスは、喫煙では解消されません。
貴方はタバコを一服した後、一息ついて「ホッ」としますが、それは切れたニコチンが、再び充填された安堵感に過ぎません。

もう一度言います、ニコチンのうそにだまされてはなりません、ニコチンのうそは非常に狡猾です。
ストレス解消を大義名分に、タバコをやめないという方が大勢いますが、タバコこそ毒性の強い依存性薬物「ニコチン」を含む、ストレスの素だということに気づいてほしいと思います。
喫煙により、ニコチンのうそに惑わされ、判断能力が阻害されます。
喫煙者がタバコを繰り返し吸うのは、それを習慣にしようと意図して行っているのではありません。
彼が1日に20本タバコを吸うと仮定すると、彼は20本吸おうと計画を立てて20本吸っているわけではないのです。
彼のニコチン依存度が1日20本程度なので、結果として20本吸っているだけです。

つまり、彼は自分の意思で、何度もタバコを吸っているんではないんです。
では、誰が、彼に際限なくタバコを吸わせているのでしょう。
彼は認めたくはないでしょうが、ニコチン漬けになっている彼の脳は正常な判断能力をすっかり失ってしまい、タバコの奴隷と成り果て、タバコに「吸えば、いいことあるから」とうそをつかれ、そそのかされてタバコを吸わされているんです。
私は、かれこれ30年近くタバコを吸い続けてきましたので、ニコチンのうそには何度も騙されてきました。
ニコチンのうそを見抜けず、一酸化炭素や発がん物質を含むタールを、体内に吸い込むなんてとんでもないことです。
冷静に考えれば、誰でもそう考えるはずですが、なかなかタバコがやめられません。
それほど、ニコチンのうそは、狡猾で執拗です。
健康を害するため、彼は貴重な時間(お金)をタバコに何年分(何百万円分)浪費してきたことでしょう。
1服3分(1箱300円)として、1日1箱吸ったら、1年で15日(11万円)、30年、40年吸い続けたら、何年の歳月と貴重な財産が無駄に費えることになるでしょう。

天文学的数字にため息が出ます。
彼は、タバコを吸っていいこともあった、と反論するかもしれません。
いかし、その良かったこととは、ニコチンにうそをつかれて、彼が失った健康・時間・蓄財に、どれほど見合うことができるのでしょうか。
このまま喫煙を続けていくと、肺がんなどのリスクも益々増加していくことでしょう。
肺がんは、発見が遅れる場合が多く、気づいた時には、既にかなりがんが進んでいるケースが多いそうです。
喫煙者の肺がん罹患率は、非喫煙者の4.5倍といわれています。
「あの人は酒もタバコもおかまいなしだが、病気ひとつしない。
」こんな話を耳にして、彼も、自分もそうなんだと、自信過剰になっているかもしれません。
しかし、こんな話の前提には「大抵の人は酒とタバコが過ぎれば、どこか悪くなるのに」という形容詞がついています。

病気ひとつしないまれな人は、どこか悪くなる大抵の人にくらべて、ずっと少ないのですから、彼がその中に含まれる可能性も、同様に稀薄です。
ロシアンルーレットではないのです、健康を計るモノサシに自信過剰は禁物です、悪いことは突然やってきます。
不安を払拭する手立てはただ一つ、ニコチンのうそを見抜いて、たった今から、タバコをやめることです。
彼は忘れてはなりません、うそをつかれて失った健康、時間、蓄財、そして何より、自分に対するタバコの蹂躙を野放しにせざるを得ない情けない現実を。
彼は、これまでニコチンのうそに、いいように翻弄されてきました。
彼が、タバコに絶縁状を突きつけ、己に対する誇りを取り戻すことを、衷心より祈念して筆を置かせて頂きます。