蔦温泉

青森県の十和田市にある蔦温泉は、国道103線沿いにある樹齢数百年のブナの原生林に囲まれた、気品のある山峡の温泉宿です。

蔦温泉は十和田湖探勝と奥入瀬渓流探索に便利なロケーションにあり、八甲田山観光の温泉基地でもあります。
また、蔦温泉は明治、大正の文人大町桂月ゆかりの地。
桂月は明治41年の初秋、初めて十和田湖や奥入瀬渓流を訪れ、蔦温泉に一夜の宿をとります。
酒と十和田・奥入瀬の自然美をこよなく愛した桂月は、道楽が昂じて大正14年には蔦温泉に本籍を移し、同年6月胃潰瘍のため蔦温泉旅館の一室で息を引き取りました。
辞世の句「ごくらくに、こゆるたうげのひとやすみつたのいでゆに、みをばきよめて」を遺し亡くなった桂月の墓は、蔦温泉の丘の中腹にあります。
更に、「あすなろ物語」で著名な作家、井上靖もこの地を訪れ蔦温泉のお湯を「泉響颯颯」と表現しています。

私なりに解釈すると、お湯が竹の葉を渡る風のようにササーァと鳴る、若しくはサッパリと爽やかな趣があるという意味なんでしょうかね。
確かに、浴槽の淵で寝湯をしながら、お湯の音に耳を凝らすと、満を持した泉がササーァと上品に流れているような気がしてきます。
著名作家の感性は、流石に本質を言い当てて妙ですね、今度聞いてみてくださいね。
蔦温泉のプロフィール
【住所】青森県十和田市蔦温泉
【電話】0176-74-2311
【泉質】ナトリウム硫酸塩炭酸水素塩塩化物泉
【日帰入浴料】税込500円(2006年12月現在)
【効能】外傷、打撲傷、各種慢性疾患など
蔦温泉は、十和田湖子ノ口の交差点から、奥入瀬渓流経由で20kmほどです。
途中にある奥入瀬渓流は、全国的に有名な遊歩道が整備されており、銚子大滝を始めとする見事な滝や、絹のような清流美、長い歳月をかけて苔むした数々の奇石、奇木がご覧いただけますので、ぜひお立ち寄りください。
玄関を入ると、右手に帳場があり、この廊下をまっすぐ進んだ先にお風呂場があります。
この日は、着物をビシッと着こなした女将が出迎えてくださいました。
単価の低い日帰り客も大事にするこの心構えが、蔦をここまで大きくした要因なんだろうなと思いましたね。
上の写真の帳場と玄関、年期を感じますよね、でも中の事務員はコンピュータに向かっていて、そろばんは置いてませんでしたよ。
大浴場の途中には「久安の湯」と呼ばれる男性専用の昔ながらの風情のあるお風呂もあります。
さあ、この暖簾をくぐれば井上靖下賜の色紙に因んで命名された大浴場「泉響の湯」があります。
私は、なるべく他に人がいない頃合を狙って、日帰り入浴を楽しむのですが、この日は先客がいました。
彼は、浴槽の奥で寝湯を楽しんだり、湯船に浸かったりを繰り返していましたので、シャッターチャンスは気楽に待つことにして、私も蔦温泉のお湯を存分に味わうことができました。
蔦温泉の源泉は、浴槽の下から沸き出てくる、謂わばゴエモン方式なので、浴槽の上層部で攪拌されるお湯と違い温泉成分が酸化しづらいのではないでしょうか。
浴室内は、昼でも薄暗く、行灯が灯されて情緒満点、加えて天井は吹き抜けになっていて、野趣に溢れています。
湯は無色透明、泉温は40度くらいで、柔らかいこなれた温泉ですが、その穏やでさりげない表情と相対し、かなり薬効の高い、強力なお湯と見ています。
効き過ぎるお湯は、入りすぎるとてきめん湯あたりしますので、注意が必要でしょう。
「まつろわぬ孤高の湯」、このイメージが蔦のお湯に対する私の印象です。